大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)7211号・昭53年(ワ)942号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
主文は、以下のとおりである。
「原告広瀬商事株式会社・被告株式会社そごう間の昭和五二年(ワ)第七二一一号及び原告柴橋商事株式会社・被告株式会社そごう間の昭和五三年(ワ)第九四二号各手形判決に対する異議申立事件は、いずれも昭和五三年六月二七日訴訟上の和解が成立したことにより終了した。
口頭弁論期日指定申立以後の訴訟費用は両事件を通じて原告らの負担とする。」
本件は、一流百貨店が、土地売買に関与して振り出した手形の支払を拒絶したことで、世の注目を浴びた事件の一部である。その手形事件の大部分は訴訟上の和解で円満解決に至つた模様である。しかし本件原告らは、和解が被告の欺罔行為によるものであるとして期日指定の申立をした。
和解の無効を主張して期日指定の申立をした事例として、東京地判昭53.4.21判時九一四号七四頁、東京高判昭54.5.17本誌三八九号九二頁等がある。
なお、本件被告の店次長であつた者らに対する特別背任事件等が大阪地裁刑事部に係属中である。
【判旨】
一本件記録によると、原告広瀬商事は被告を相手に昭和五二年一一月五日当裁判所に原告は被告に対し約束手形金八〇〇万円とこれに対する同年一〇月三〇日から完済まで年六分の割合による金員の支払を求める旨の手形訴訟を提起し、右事件(昭和五二年(手ワ)第二六八三号約束手形金請求事件)につき当裁判所において同年一二月一五日原告の請求を認容する旨の手形判決がなされたが、これに対し被告は異議申立(本件昭和五二年(ワ)第七二一一号事件)をしたこと、また原告柴橋商事は被告を相手として同年一二月二七日当裁判所に原告は被告に対し約束手形金合計二億七〇〇〇万円とこれに対する同年一二月二六日から完済まで年六分の割合による金員の支払を求める旨の手形訴訟を提起し、右事件(昭和五二年(手ワ)第三一七七号)につき当裁判所において昭和五三年二月二一日原告の請求を認容する旨の手形判決がなされたが、これに対し被告は異議申立(本件昭和五三年(ワ)第九四二号事件)をしたこと、本件各異議申立事件において、被告は本件各手形を振り出したことは認めるが、本件各手形は宝開発株式会社あるいは大和ランド株式会社に詐取された手形で、原告らは悪意の取得者である旨主張したのに対し、原告らはこれを争つていたところ、本件各異議申立事件につき、原告・被告間にそれぞれ同年六月二七日、被告は原告広瀬商事に対し同月二九日限り金六四〇万円を支払う旨、また被告は原告柴橋商事に対し同日限り金二億六〇〇〇万円を支払う旨の内容の各訴訟上の和解(以下「本件各和解」という。)が成立したことが認められる。
二ところで原告らは、本件各和解は、被告が他に手形金元本を全額支払つて和解する例はありえない旨申し向け、原告らをその旨誤信させて成立せしめたもので、詐欺により取消されるべきものである旨主張するので以下この点につき判断する。
証人浜田行正の証言及び原告柴橋商事代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件各異議申立事件につき、昭和五三年二月末ごろ、被告訴訟代理人高澤嘉昭弁護士より原告ら訴訟代理人浜田行正弁護士に対し、手形金元本二割の免除を内容とする和解の申出がなされたこと、これに対し右浜田弁護士は原告柴橋商事代表者柴橋秀彦(以下「柴橋」という。)と相談のうえ、右高澤弁護士に、「原告広瀬商事の手形金元本金八〇〇万円については二割免除に応じられるが、原告柴橋商事の手形金元本金二億七〇〇〇万円の二割免除には応じられない、手形金元本の一〇〇〇万円減額ならば応じられる、ただし原告柴橋商事の決算期は昭和五三年三月末であるので、支払期日はそれまでにして欲しい」旨の回答をしたが、被告からはその後何らの返答もないままであつたこと(以上の事実は原告広瀬商事関係部分を除き当事者間に争いがない。)、その後同年六月上旬に至り、右高澤弁護士より、再び右浜田弁護士に対し、「この際実業信用組合とたつみ産業株式会社に的をしぼりたいので、他の手形債権者にも手形金元本の一割ないし二割の免除を依頼している。原告らについても原告提示の従前の案で和解を検討してほしい」旨の和解の申入れがあつたこと、右浜田弁護士は直ちに柴橋に右和解の申入れを伝えたが、その際、柴橋は右高澤弁護士に確認の趣旨で電話を入れたところ、右高澤弁護士から、「他の手形債権者に対しては手形金元本の一割ないし二割免除を依頼している。それらと比較すると原告の和解案は有利である、和解に応じなければ裁判が長期化する」旨の返事を受けたこと、そこで柴橋は、他の手形債権者と比べて有利な案であり、また和解に応じなければ裁判長期化のおそれもあり、かつ原告柴橋商事において同年六月末に銀行融資を受ける予定であつたが、和解金が入金できればその必要もなくなるところから、和解金の支払の履行期を六月末とすることで本件和解に応じたこと、ところで本件各和解成立後間もなく被告とその他の手形債権者(株式会社信興、同永和等数名の業者)との間で手形金元本に利息を付して支払う旨の内容の和解が成立したこと(この点については当事者間に争いがない。)等の諸事実が認められる。
しかしながら、右認定の事実によると、被告は原告らに対し、他の手形債権者に対しては手形金元本の一割ないし二割の免除の和解の依頼をしている旨を告げたものではあるけれども、被告が右認定のとおり本件各和解成立後間もなく他の手形債権者との間で手形金元本全額に利息を付して支払う旨の和解をしたことを考慮しても、被告が、他の手形債権者との間で確定的に手形金元本全額等を支払う旨の和解をする意図を有していながら、原告らに対しては、右意図を秘し、原告ら主張のような申入れをしたとまではいいえないのみならず、そもそも、和解においては事案の内容、証拠関係、当事者、交渉の内容、時期等によつてその内容が異なることは当然ありうるものであることをもあわせ考えると、被告が本件和解の成立につき原告らの主張するような詐欺の故意を有していたといいえないことは勿論欺罔行為それ自体も存在したとはいい難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠は本件を通じ存しない。
(楠賢二 肥留間健一 小山邦和)